基礎知識

蛾に関する基本的な知識や用語をまとめています.


1. 蝶と蛾の違い

昆虫について詳しくない人と話をすると必ずと言っていいほど聞かれるのがこの話題です.「蝶は昼間活動するが,蛾は夜活動する」「蝶は翅を閉じて止まるが蛾は畳んで止まる」 などさまざまな俗説が言われていますが,全てに例外が存在します.分類学的には蝶も蛾も同じ鱗翅目に属し,その中でも昼間の環境に特化したアゲハチョウ科・シロチョウ科・シジミチョウ科・タテハチョウ科・セセリチョウ科の5つに属するものを蝶と呼び,それ以外のものを蛾と呼んでいるだけの話です.ちなみに鱗翅目は日本に6000種余りが知られていますが,蝶と呼ばれているものはそのうち約250種に過ぎません.


2. 成虫前翅の各部名称

蛾の成虫の翅には,どの科においてもある程度共通した形式の模様があり,それぞれについて固有の名称が与えられています.これらの名称を知っておくと,図鑑などを見て同定するときに役立ってきます.

①前縁(ぜんえん):翅の前側の縁.
②外縁(がいえん):翅の外側の縁.外側には後述する縁毛と呼ばれる毛がある.
③後縁(こうえん):翅の後側の縁.
④翅頂(しちょう):前縁と外縁とが形成する角の部分.
⑤後角(こうかく):外縁と後縁とが形成する角の部分.
⑥基部(きぶ):翅の付け根の部分.


⑦剣状紋(けんじょうもん):基部付近から内横線まで伸びる細長い紋. ヤガ科のケンモンヤガ亜科に多く見られるが他の蛾ではあまり見られない.
⑧亜基線(あきせん):内横線と基部の間にある線.目立たない種が多い.
⑨内横線(ないおうせん):基部近くにある線.多くの種に見られるため同定の際重要となる.
⑩中横線(ちゅうおうせん):内横線と外横線の間にある線.あまり目立たない種が多い.
⑪外横線(がいおうせん):外縁近くにある線.多くの種に見られるため同定の際重要となる.
⑫亜外縁線(あがいえんせん):外横線の外側にある線.種によっては同定の際重要となることがある.
⑬外縁線(がいえんせん):外縁上にある線.目立たない種が多い.
⑭縁毛(えんもう):外縁に生える毛.飛び古した個体では脱落することが多い.
⑮腎状紋(じんじょうもん):翅の中央付近にある大きめの紋.ヤガ科などでは同定の際重要となる.
⑯環状紋(かんじょうもん):腎状紋の内側にある小さめの紋.円形に近い形をしていることが多い.
⑰楔状紋(けつじょうもん):環状紋の下側にある細長い紋.この紋を持たない種類の方が多い.


3. 蛾の採集法

3-1. ライトトラップ
多くの種類の蛾は夜間明かりに集まる習性を持っています(光走性).これを利用し,夜間白い幕を張り,水銀灯などを点灯して蛾を集める採集法です. 光源には水銀灯やブラックライトなど紫外線を多く含むものを用います.周囲に明かりがなく,光源の光が広範囲に届き,風の当たらない場所で行うのが理想的です.「ナイター」とも呼ばれます.
僕が普段行っているライトトラップの方法や機材はこちらに書いてます.

ライトトラップ
灯火採集風景

3-2. 灯下巡り(とうかめぐり)
街灯やトイレ,自動販売機など既存の明かりに集まる蛾を採集します.特に山あいのダムやトイレ,コンビニは狙い目ですが,最近は照明のLED化が進み,蛾の集まるポイントは少なくなっていく一方です. 注意点として,傍から見ると完全に不審者なので職質を受ける覚悟は必要ですw


蛾の集まる公衆電話

3-3. 糖蜜採集(とうみつさいしゅう)
砂糖・酒・酢を混ぜた液体(糖蜜)を利用して蛾を集める採集法.糖蜜を霧吹きで樹幹に吹きかける方法と,脱脂綿などに染みこませて樹幹に設置する方法の二通りがありますが, いずれにしても日没前に仕掛け,日没後30分~1時間ほど経ってから見回ります. 夏はヤガ科のCatocala属やトモエガ亜科,カラスヨトウ亜科など,晩秋~早春にかけてはキリガ類の採集に効果を発揮します.また,これらの蛾はクヌギやコナラなどの樹液にも飛来し,同様の種類が得られます.


糖蜜に飛来したクロテンキリガ

3-4. 叩き出し採集(たたきだしさいしゅう)
日中に草薮や暗い林内に潜んでいる蛾を叩き出して採集する方法です.ハマキガ科,ノメイガ亜科,シャクガ科,ヤガ科などが多く採集できますが,たたき出された蛾はものすごい速さで飛んで逃げるためかなりの反射神経が必要です.

3-5. その他の採集法
多くの蛾は花を訪れ吸蜜します.昼間はヒゲナガガ科,マダラガ科,イカリモンガ,シャクガ科の一部,トラガ亜科など,夜間はツトガ科,シャクガ科,スズメガ科,ヤガ科など多くの蛾が集まります.


4. その他用語解説

・ミクロレピ
蛾を大きく二群に分けたとき,より原始的な一群.キバガ科など小型種が大半を占める.小蛾類とも呼ばれる.

・マクロレピ
蛾を大きく二群に分けたとき,より高等的な一群.ヤガ科など中~大型種が大半を占める.大蛾類とも呼ばれる.

・偶産蛾(ぐうさんが)
その地域に住み着いていない蛾の総称.南方系の種で台風によって飛ばされてくるものを指すことが多い.

・土着種(どちゃくしゅ)
その地域に住み着き,世代を繰り返している種.

・移入種(いにゅうしゅ)
人の手によって自然分布域の外から持ち込まれた種.≒外来種

・亜種(あしゅ)
種の下に設けられる分類単位.同種内であっても,別種とまではいかないが明瞭な違いが見られる集団に対してつけられ,多くは地理的隔離を伴う.

・名義タイプ亜種(めいぎタイプあしゅ)
複数の亜種が認められる種の中で,その種の基準となる標本を含む亜種.この亜種小名は種小名と同じものが用いられる.

・冬尺蛾(ふゆしゃく)
シャクガ科の中で,主に冬季に成虫が出現する種の総称で,♀は翅が退化し飛ぶことができない. 日本からは35種が知られ,フユシャク亜科の全種と,エダシャク亜科とナミシャク亜科の一部も含む.

・カトカラ
ヤガ科シタバガ亜科Catocalaに属する蛾.前翅は目立たない樹皮模様だが後翅は紫,白,赤,黄色といった鮮やかな色彩を持ち,蛾屋の間では人気が高い.

・越冬キリガ(えっとうキリガ)
ヤガ科キリガ亜科の一部で,晩秋に羽化して成虫越冬し,翌年の早春に再び活動・産卵を行う種の総称.蛾屋の間では人気が高い.

・秋キリガ(あきキリガ)
ヤガ科キリガ亜科の一部で,晩秋に羽化するが成虫越冬はせず,年内には終わる種の総称.蛾屋の間では人気が高い.

・春キリガ(はるキリガ)
ヤガ科ヨトウガ亜科の一部で,早春に出現する種の総称.蛾屋の間では人気が高い.

・開張(かいちょう)
展翅された標本の状態での両前翅の翅頂から翅頂までの長さ.図鑑などではほとんどがこの表記を用いているが, 展翅のやり方によって差が出ることがあるという問題がある.また,そもそも標本にしないと計測できない.

・前翅長(ぜんしちょう)
前翅の基部から翅頂までの長さ.当サイトではこちらの表記を用いています.

・展翅(てんし)
標本作製の際,観察しやすくなるよう翅を広げて形を整える作業のこと.展翅板という道具を用いて,展翅テープで翅を押さえて固定する.マクロレピは基本的に蝶と同様の方法で展翅するが, ミクロレピの場合は微針や専用の展翅板など特別な道具が必要.

・下唇鬚(かしんしゅ)
ラビアル・パルプスとも呼ばれる.通常3節からなり,顔面の前方に突出し「鼻」のように見える.
主にミクロレピでよく発達し,キバガ上科では「キバ」のように見えることからその名がついた.マクロレピでもアツバ亜科やクルマアツバ亜科などの種ではよく発達し,テングアツバのように特に長く発達するものもいる.

・翅棘(しきょく)
後翅の付け根にある,前翅と後翅を連結する突起.♂は太い1本,♀はやや細い2~3本を持つ.


last update: 2016.6.29
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